-エピソード]V-

昨日きちんと泣いたおかげか、妙にスッキリと目が覚めた。なんだか身体も軽い。

「んっ…ぅっ、ぅ……ふぁぁ…ぁふ」

ベットに寝転んだままでおもいっきり伸びをした。
素肌に着けてたキャミが汗ばんでたのか、ゆるゆるの筈なのに肩紐がちょっと突っ張った。

「窓開けてたけど暑かったもんねぇ…ぅやあ…」

伸びのおまけに出た欠伸の涙を擦った後、キャミの中に手を入れる。
お腹側から入れたその手の平で、胸の下にじっとりと掻いてた汗を拭った。

あ、身体が軽いのは一人でシなかったからかな?
あそこにおもちゃ入れて寝たりしなかったし…
もう、いつ以来かねぇ?えっちな事しなかったっていうの。

そんな事を考えながら、久々にパンツを履いたままの下半身を覗き込む。
「ありぇ?」
意に反して目に入ったのは丸裸の下半身だった。

もしかして…シちゃっ…た?
へ、変な癖付いちゃったかな?えっちな事しないと一日が終わらない。とか…

まだキャミの中で脇腹を掻いてた右手を抜いて、恐る恐るその中指を鼻に持っていった。

「…」

一旦指を離したけど、もう一回確認。
「……ん?」

つ、使わない方の左手。
「…」

もっかい右手。
「……………」

多分シてない。筈…

そういう事に決めてちょっと安心。
自分で無意識にシちゃってるなんてカッコ悪すぎるしね。

「……クンクン…」
ゃ、やっぱり自信ない…

気を取りなおし、パンツの捜索を再開。
腰を丸めて足元を探してみたけれど、やっぱり履いてた筈の白のパンツは居なかった。
ベットの角で、クシャクシャの山になってたタオルケット。
それをお行儀悪く、かたっぽの足で引っ掻けてひっくり返しても顔を出さなかった。

あれぇ〜、ドコいった?絶対履いてたよね?…ん〜?…

寝返りを打ち、ついにそれを見つけて苦笑い。
暑くってパンツ脱いじゃったんだっけ。

膝上までは手で下ろして、あとは足だけでゴソゴソ。
だけど、左足首は窄まった穴から上手く引き抜けなかった。
で、たしか放っといた。
そのうち中途半端にゴムが絡まる感じが痒くなって、でもってイライラしちゃって、
寝ボケながらも手で毟り取って投げつけた。

……そんな覚えが有るような無いような。
あ…無理矢理引っ張ってゴム伸びちゃったかな?

こんな酷い寝相じゃ、誰かと一緒に寝られないねぇ…
パジャマだと上着のボタン外しちゃってる事多いしねぇ…
ズボンは必ず脱いじゃうから、最近は履かなくなっちゃったしねぇ……
殆ど必ず脚を絡ませちゃってたりするし…

わしゃわしゃの髪の毛を手で梳かしながら、そんな恥かしい癖を反省。
そしてそんな寝相を食らわしてしまった、災難な友人達を思い浮かべた。
…
……ぃ、いっぱい居過ぎ。

凹んだ。

ここでも気を取り直して、最悪の被害者を探してみる。

んっと…愛ちゃんはまた別として、とりあえずマコが一番の被害者かねぇ?
スッポンポンで抱きついちゃってたらしいし。
朝、目が覚めてそうなってたらビックリだよねぇ…
慌てて私を引っぺがして、そのまま『何かしたっけ?どうしよう』って、
二時間以上悩んでたって言ってたもんね。

……あれ?
あの時って、目が覚めたら確か布団も何も掛けてなかったよね、私。
でー…
マコが足元に正座してて…
布団被って…
こっち見て口開けてて…
私はこんな感じでマコ見つけて…
ん?その間の二時間って…
ぇ……全部見ら…二時間ずっ…

「や、止め止め!考えるの止め!あ〜恥かしい。…もぉ!」
「んっしょ」

体を起こし、熱くなった顔を手で扇ぎつつ、
裏っ返ってテーブルの上でだらしなく寝ていたその子を拾って身に着けた。

ふと、ピンクの絨毯の上に見つけた縮れた毛。
近くに落ちてた髪の毛と一緒に、摘んでゴミ箱に捨てた。

「まだ5時前、か。なんか早起き過ぎてマコみたいだね、今日の私」

いつもなら二度寝しちゃうところだけれど、今日はなんだか勿体無い。
カーテンを開けてもう一度大きく伸びをした。
まだ重くない朝の空気が気持ちイイ。
その空気の中に、なんとなくA君の匂いみたいのを感じた。

しばらくその匂いを嗅いでたら、
すぐ近くから聞こえた新聞屋さんらしき自転車のブレーキと投函音。

「毎朝ご苦労さ…」
左胸を丸出しにして持ち上げて、その裏側の赤みを覗きながら掻いてた手を止めた。
慌ててレースのカーテンを引いて奥に引っ込む。

「み、み、み、見られてないよね?」

見…ぁ、…マコに見られちゃったあの時も、無意識にシちゃってたりしないよね?
ま、ま、丸出しで見せつけ……

まだ気温は然程じゃないのに、『見られたかも』のダブルパンチで変な汗がドッと出た。

…はぁ。

溜息しか出てこない。
凹みまくって、もうくたびれた。
うな垂れた足元に、また縮れた毛が居た。

――もういっその事、部屋着は学校の水着にでもしようかな。


念入りに身体を磨いて朝ご飯まで机に向った。
愛ちゃんと会えなくなって以来、さっぱり身に入らなかった勉強にも集中できた。
既に髪の毛もバッチリ決まってルンルンだったからか、朝ご飯もとびきり美味しかった。
そのせいなのか、いつもより二つも余計にロールパンを食べちゃった。
ここだけはやっぱり反省。…ダイエット……

食べ過ぎちゃった事をちょっと引き摺ったけど、
それからまた集中できて、気がついた時はもう九時を少しまわった頃だった。

「そろそろ行こうか、な」
教科書とノートを可愛いバッグに詰め込む。
これは一応、見た目を取り繕う為の物。

実際は…
――A君に会いたい。出来たら今日は抱かれたい。
なんてばっかり考えちゃう。

そればっかりに頭が占領された私は殆ど無意識に、
替えのパンツをポーチに入れてバックに入れ込んでいた。
あそこもウエットティッシュで念入りに拭き、軽く甘いコロンを吹きかける。
付け替えたばかりのパンツも可愛いのに改めて替えて、いそいそと玄関へ向った。

「こんな早くから出かけるの?帰りは?」
トイレから出て来たお母さんと、廊下でバッタリ鉢合わせ。

「涼しい図書館で勉強して来る。帰りは…たぶん夕方頃、かな?」
内心はかなり動揺しながらも、しれっとそんな嘘をつく。

特に興味が無さそうな返事を背中で聞きながら、感じる視線はいつもと違う感じ。
…若い頃のお母さんも、お父さんとデートする時って私みたいな嘘ついてたのかも。

背中に刺さる視線が多いに気になりながらも、
「晩御飯は絶対食べるから」っていつもどおりに付け足して外に出た。
『夕方頃』と付け足した返事を思い出し、一日中えっち出来るかな?なんて
ハシタナイ想像に顔が熱くなった。

眩しい日差しに昨日と同じ蝉の声。
上がりきらない太陽が、もう汗を噴き出させてくる。
控えめに施したお化粧の崩れを抑えるように、ハンカチを鼻に押し当てた。

えっちを期待してたからかもしれない。
A君の家に向けて早足で歩きながら、
私は無意識に爽やかさの欠片も無い想像を巡らせていた。

一日中えっちするとなるとゴムっていくつ使っちゃうんだろ?
たしかA君の最高っていうのは一日で5回?だっけ??
そういや、ゴムって女の子も持ってたほうがいいのかな?
コンビニで買うのはちょっと……愛ちゃんはどこで買ってたんだろ?
なんて。

途中で入ったコンビニで、ペットボトルを取り出して振り返った先。
おつまみの棚の一番下に棒状の大きなサラミを発見。
そのせいで、ゴムを被った大きなおち○ちんも頭に浮かんじゃうし、
入ってくる感覚を思い出して、あそこがヒクヒクしちゃうしで、
どうしてもニヤケちゃう顔を直すのが大変だった。

自然に足が向くお菓子コーナー。
ここでも変な想像が勝手に湧き上がる。

あ!愛ちゃんと一緒に行った下着屋さんで、キャンディーみたいなパッケージの見てたっけ。

…そういや、フルーツの匂い付きのは愛ちゃん持ってたっけなぁー。こっそり集めてたって。

…味ついてたりしたら私も色々集めてみたいな。

…あれ舐めていったら、ガムみたいにそのうち美味しくなくなるのかねぇ…

…ん?でも結局はゴムの味しそうだよねぇ…美味しくなさそうだよねぇ…

…ガムにもゴム入ってるし、やっぱりガムみたいに美味しいのあるのかねぇ…

…そのゴムも、チョコレートと一緒に食べると無くなっちゃうのかな?


……コンビニを出る頃には、やっぱり食べ物の事に変わってた気もしないけれど。

改めて彼のお家への道すがら、
想像の中で、パッケージから摘み出したゴムを口の中に入れてみた。

「う゛…想像するんじゃなかったよぉ」
奥歯で噛んだら『キュイッ』って鳴って寒気がした。

色々考えてた中に愛ちゃんの事も色々浮かんだけれど、
昨日までとは打って変わって、変に意識することはまるで無かった。
部屋を出てからずっと、A君に抱きしめられる感覚を思い出してたからかもしれない――

深くキスをされ、胸を揉まれ、あそこを撫でられ、そして舐められ、
大きく熱いおち○ちんを挿入しながら、ゆっくりと体重を掛けてくるあの感覚を思い出して…

そんな妄想を全身に沸き立たせながら、あっという間に着いた彼のお家。
3回大きく深呼吸をしてインターホンのボタンを押した。

すぐに出てきた彼。
あまりに淫らな妄想をしてたことが恥ずかしくなって、目は全く合わせられなかった。
けれど…

彼を目の前にしただけで、乳首もあそこもジンジンしちゃってどうにも堪らなくなっていた。
股間もなんだか湿っぽい。
全身に薄っすらと掻いた汗とは、やっぱり違う感じがしていた。

◇

玄関口では普通に話せたものの、
いざ彼のお部屋に入っちゃうと、やっぱりどうしていいのか判らない。
泣き顔を見られちゃったのも思い出したら恥かしいし気まずいし。
来る途中の暢気な想像とは打って変わって何も思いつかない。
…さっきまで無理矢理興奮を抑えようと、
アルミホイルを齧ってる嫌な感触は思い出してたけど。

回ってる扇風機。
蝉の声。
汗をかいてる麦茶の入ったコップ。
同じ場所に座っているA君。
同じ場所に座っている私。
全てがまるで昨日の続き。あの時のまま。

今更ながら、何で来ちゃったのかよく判らなかった。
ううん、実際のところはちゃんと判ってる。

――抱かれに来た。一杯えっちする為にここに来た。愛ちゃんとスルみたいに一杯。

その意識は私の目を勝手にA君の手に向ける。
そして『今日はどんな触れ方してくれるんだろう?』なんて妄想を巡らせる。
だけど、切り出すタイミングも見つからないし、
自分から『えっちして』って言う勇気も出ない。
彼が抱いてくれる保障も…
だから、何で来ちゃったんだろう。って後悔みたいな…

それでも全身の疼きだけは勝手に膨張し、あそこを頻繁にヒクつかせ、
俯いたままの私の目はテーブルのガラス越しに、彼の股間を頻繁に捕らえていた。

「で?」
「えっ?」
「いや、何か相談とかあって来たんじゃないのか?」
「そうじゃなくって。
…ほ、ほら、A君て英語得意でしょ?教えてもらいたくって」
形だけの勉強道具を取り出してテーブルの上に乗せ、
適当な理由を早口で言っちゃった私。

緊張したりすると出ちゃうこの癖。
A君も知ってるから動揺してるのバレちゃったかも。
でも上目使いでこっそり見た彼の表情は案外普通だった。

「あ〜…そういや紺野って英語ダメダメだもんな」
A君は気が抜けたみたいにそう言いながら立ち上がり、
机の上からノートやらテキストを取って、また同じ場所に座った。
その間にも私の目は、彼のハーフパンツの股間をずっと追っちゃっていた。

――ちょ、ちょっとだけ膨らんでる?もしかしたらA君も…

ノートなんかの山を前に置いたまま、
私はまた近くに来たそこを、横目で見続けるばかり。


視線を感じて、慌ててノートの山を崩そうと手を伸ばす。
「な、なあ。昨日とコロン違かったりする?」
「ふぇっ?」
突然予想もしていなかった話題を振られて驚いた。
それとなくA君の股間に向けてた顔をおもわず上げる。

「…と、ところてん?…買ってないけど。…あ!はい、これ」
身体の火照りとえっちな事を考えちゃってたのを見透かされないように、
コンビニの袋を開いてA君の分も買ってたペットボトルを手渡す。
――か、顔、赤くなっちゃってないよね。

「ちょっと温くなっちゃったね」
「あ、サンキュ…というか、コロンって言ったんだけど、俺」
「コロン?」
変な聞き間違いに照れ笑い。
自分の分のペットボトルの蓋を開けて、熱い顔を冷ますようにちょっとだけ喉を潤おした。

「昨日のとは違うけど、ちょっとキツいかな」
違いに気付いてくれた事が嬉しく思いながら腕をクンクンする。
――胸にもちょっと吹きかけたのが余計だったかな?

「く、臭いかな?」
「い、いや、あの…なんとなくそう思っただけで。凄く良い匂いだし、俺は好き。
バニラみたいで甘い感じのも紺野らしいし」
早口でそう言っておきながら、さっきより顔を赤らめている彼。

多分変な空気をどうにかしてくれようと、とりあえず話を始めてくれたのかな?
直後に私から顔を背けて「何言ってんだ俺」とか小声でひとりごと言ってるし。

「んふっ。ありがと。誉めてくれて」
「や、あの…その…」
「ひとりごとは聞こえないように話しましょう」
「えっ?」
「『何言ってんだ』って聞こえた。さっき」

「あれはあの」とか、動揺しながら手を振っているおかしなA君。
その姿に変に緊張しちゃってた私の気持ちもいつの間にか和らいでいた。
ホントに勉強教えてもらおうと、ノートを開いてペンケースに手をかける。

昨日の事もそうだけど、色々気遣ってくれて凄く嬉しい。
それにコロンの匂いまでもちゃんと気付いてくれたし。

――初めてホテルでえっちしちゃった時と同じって覚えてるかな?

そんな彼が居るからかな?
男の子の部屋に居て妙に落ちつく事がどうにも不思議。
シャープペンをカチカチやりながら、
なんとなくテーブルに落ちてる影を辿ってそっちを向いた。

薄いカーテンが半分掛かった窓。
開いてるその向こうにマンションのベランダが見えて、可愛い色のお布団が干してあった。

…お布団干すにはイイ天気だぁねぇ。
…あれ?昨日って。
干し上がったフカフカのお布団の感触を思い出したら、今度は私が動揺する番になった。

「き、昨日ってさ、私、自分でベットに乗ったの?」
「え?あー、座ったまま居眠りしてたから俺が乗っけたんだけど」
私があげたペットボトルに口を付けながら、彼があっさり言った。

抱きかかえられてベットに…
自分でも気になるくらいに汗臭かったのに……

顔から火が噴き出しちゃったみたいに一遍に熱くなる。

「ご、ごめんね。重かったでしょ」
恥かしすぎて、汗臭かっただろう事は聞けない。
けれど返って来た答えは意外な物だった。

「かなり軽くってびっくりしたよ。ちゃんと飯食ってんのか?
それに昨日のコロンの匂いすごく良かったから、さっきあんな事聞いちゃって…」
「あ、汗臭かったでしょ?」
「いや、全然。良い匂いすぎて…こう……」
最後の「こう」の意味が解らなくって彼の顔を見つめる。
苦笑いしながらホッペを掻いてるし…

「おかげで危うく襲っちゃうところだったよ」
暫くキョトンとしてたとこにそう言われ、やっと意味が解った。
「え、えっち!」
汗でベタベタになった脚とか背中とかに触れられ、
その臭いも嗅がれちゃってた事にもっと落ち込む。

そんなトコ襲われちゃったら恥ずかし過ぎてもう……

「あんな匂いさせてる方が悪いと思うぞ。それに襲わなかったろ。
あ〜あ、せめて紺野の胸に顔を押し付けて、あの匂い嗅ぎまくっておくんだったよ」
私から顔を背けてシレッとそう言った彼の表情は、本気で残念がってる感じ。

別にいいのに…A君に襲われるなら。
汗の臭い嗅がれちゃう方は、やっぱり恥ずかしいから嫌だけど…

だけど、昨日襲われてたら落ち込んでたかもしれない。
余計に愛ちゃんと重ねちゃって悲しくなってたかも…

無言で居る私が引いちゃったと思ったのか、彼が続ける。
「お、落ち込んでる人間を襲うなんて最低だしな。紺野は大事な友達だし…」

…友達、か。

ちょっとだけがっかりしながら、笑顔でそう言ってくれたA君に心から感謝した。
そして今までよりも、もっと好きになった。

「で、元気になったか?」
「うん。ありがと」
「いや、……」
「ん?なに?」
またA君の表情が変わる。さっきと比べて硬くなった感じ。
下を向いたり私の顔を見たり。でも目線をすぐに外したり…

「なに?A君?」
もう一度聞いてみた。
窓の外に向けてた顔が、何かを決心したみたいな真面目な顔になってこっちを向いた。
でも赤くなってるのは何でかな??

「こ、紺野」
「ん?」
「ひ、引くなよ」
「あ、うん…」
「こ、紺野のあそこ見せて」
「ん?」
首を傾げて『あそこ』の意味を考える。
彼のますます赤くなっていく顔。
私が英語で解らない部分かな?
ノートに目を落として、そのページを繰り出そうとページの端っこを摘みかけた。
ちらっと見えた英文の最後に" be passion. "の文字。

「こ、紺野を抱きたい。今日一日中」
えっ!?えっ!?
その言葉と『あそこ』の意味が繋がって、
おまけに" be passion. "もくっ付いちゃって、私の顔も体も一気に熱くなった。

「紺野、俺とセッ○スしよ」
「…」
嬉しいけれど、ズバッと言われちゃって恥かしくって、
彼を見ないままで無言のまま頷きかけた。
頭の中を、今彼が言った四文字がぐるぐる回る。

―無言のままじゃダメ。これじゃ愛ちゃんの時と同じ。

熱すぎる顔を上げてA君の顔を見た。
何故か涙目になっちゃってて、ぼやけて見えるそれ。
それに向けておもいきって口を開いた。

「わ、私もA君と一杯えっちしたい!」

無駄に大きくなっちゃった声。
おまけにその声は、一回転して戻って来ちゃうくらいひっくり返ってた。

「わ、私も家出る時、夕方まで一杯えっち出来るかな?って思って、
お母さんには帰りは夕方くらいになるって言ってきて、
一日中ってなるとコンドーム何個いるのかな?とか考えたりして、
A君の最高は一日5回って言ってたし、今日は新記録……え?…あのっ!……」

ひっくり返った声にメチャメチャ動揺して、余計な事までも早口で口走っちゃうかっこ悪い私。

「あっ!…や、あ、あのっ!……ち、違くって…」

とんでもない事言っちゃって恥かしすぎて、全身が熱くなった。
顔なんて焦げたと思っちゃうくらい…
俯いて、A君の方に向けて手をブンブン振ってたら、その手ごと抱き締められた。
更にギュって抱き締められて、そのちょっと苦しい感じと彼の匂いに体の力が抜けた。

「ぁ…ん……」

あの日以来の誰かとのキス。
ほんの数秒の唇同士のそれだけで、ちょっぴり濡れちゃった。

一度離れて私の顔を無言で覗き込んだ彼に、またキスされる。
今度は入って来た舌先が、私の舌先を柔らかく撫でてくれた。

窓の外のベランダの奥から、背の低い女の人が洗濯籠を持って現われた。
ニコニコしながら物干しにTシャツとタオルを干している。
黄色い紐のパンツと、同じ色のブラ。それを隠すみたいに周りにタオルを掛けた。
その中に、今度はベージュのブラを持った手が入って行った。

あ…私、目開けてた。
目を瞑りながら、彼の舌先を私のそれで撫で返した。

――Please hold on me …at all day long …as long as be passion?……?

全然わかんないや。

頭を空にして、もうちょっと大きく口を開けた。

「んっ!」
予想外に粗く深く入って来た舌に喉から漏れた音。
苦しかったのが判ったらしい彼が口を離す。

「ご、ゴメン」
「ん…へ、平気」
俯いたままでそう返事して、唇に残る湿り気をこっそり舐めとった。

ちょっと驚いたけど全然嫌じゃない。
少し粗いのも男の子にされてるって感じもするし、奪われてるって感じもするし…

彼の胸で抑えられてた腕を抜き、胸を押しつけるように背中へと回す。
お詫びみたいに頭を優しく撫でてくれる彼に抱かれながら、
自分が伸ばした腕にちょっと力を入れて感触を確かめた。

やっぱり男の子の背中って大っきいな。
んふっ。ちょっと湿っぽい。
あ、私の背中も湿っぽいと思われてるかも。
乳首…勃っちゃってるけどバレてないよね?
心臓バクバクしてるのバレちゃってるかな?
A君の匂い…もっと心臓が早くなっちゃう……聞こえちゃう…

それだけじゃなく、
こんな早い時間からこうなってる事。
これからえっちが始まる事。
裸になっちゃう事。
期待してただけに凄く乱れちゃいそうな事。
さっきのキスで、ちょっと乱暴にもされてみたいな。なんて思っちゃってた事。

それらの事を妙に冷静に思い出して、より一層恥かしくなった。
彼の肩に顔を乗せたまま僅かに胸を離した。

「カー――」
「紺野…」
『カーテンを閉めて』って言いかけた私の声に、彼の囁く声が重なった。
そして両手の平でふわっと包まれちゃったホッペ。

――こ、こんなの反則。顔が熱っくなっちゃうよ…

まるで愛ちゃんみたいな優しい触れ方に、一段と激しくなる鼓動。
嬉しいのと恥かしいのと緊張とでプルプル震えちゃう身体。
恥かしくって、目を閉じる事も開ける事もどっちも出来ない。
ピントが合わないくらいごく薄く開けた目が、もっと欲しい唇の上を行ったり来たりしちゃってた。

「ぁ…ん」
それが小さく動きながら寄って来て、私の口をそっと塞いでくれた。

――な、んで?

まるで愛ちゃんに名前を呼ばれてキスされたみたい。
声も、出した言葉も、唇の感触も、全部が全部、全く違うのに……

自分の身体もいつもみたいに動いちゃって、自然に彼の首を抱え込んでいた。

…んっ…んっ……

ソフトにゆっくり優しく口の中を撫でてくれる彼の舌。
されるがままにそれを受ける私の舌。
ほわんと頭が霞み掛けてきた時、
私の舌を優しく吸いながら、また唇が離れちゃった。

「苦しくない?」
啄ばむキスを一つして、そう聞いてきた彼。

――聞かなくってもいいのに…

だけどそんな優しさが嬉しい。

「ん、だいじょぶ。き、キモチいい。
それに…す、少しづつ苦しくなっちゃうのは、その…す、好きだし…」
ホッペを包んでる片っぽの手に自分のを添えて、おもわず素直な感想を口にしちゃった。

「ん…」
また塞がれた口。
舌の裏、唇の裏、上下の前歯、そしてその裏…
今度もゆっくりと撫でてくれる。

――キモチいい…

『もっと!』と言うように、私も彼の舌の裏を撫で上げた。

湧き出しちゃう唾液――
絡み合う舌はそれをまとって滑り合う。

溜まっちゃう唾液――
お互いの舌を吸いながら、自分のと混ぜ合わせてはそれを飲みこんでいく。

零れそうになる唾液――
舌を絡めたたまで隙間を埋めるように口を密着させて、
溢れるままに相手の中へ流し込む。

零れ出ちゃう唾液――
それを口の中に戻すように、より大きく口を開けて…

お互いの舌を吸う度に立つ湿った音。
それが段々と大きくなって…
まるで鳴らす音を競い合うみたいに啜り合い、絡ませ合って…

いつの間にか私は、全身の火照りと霞んでる意識の中で、
夢中になって彼の舌に唇にむしゃぶりついていた。

息苦しさ。
荒い鼻息。
唾を飲み込む音。

――私のかな?これ…

頭の遠くの方でぼんやりとそう思いながら、
背中から流れ込み始めた快感にピクンと身体が震えた。

「んっ!…ふぅぅっ!!」
続けざまに襲ってきた大きな刺激に、今度は全身を大きく震えさせられた。
そして舌を絡ませたまま、彼の口の中に盛大に吐息を吐き出した。

いつの間にか背中のホックが外されているブラ。
キャミをたくし上げるみたいに入り込んでいた彼の大きな手。
その手が、緩んだブラの中で私の両胸を柔らかく持ち上げていた。

「むううっ…」
ゆっくりと撫で上げられて、じわじわと胸の山を包み込まれてく。

「んむっ!!」
指の又に乳首が引っかかって、全身に鋭い電流が走った。

「んんっ!…んっ!…ふぁっ!…ふぁっ!」
一瞬で限界までに硬く勃ち上がった乳首が、乳房を撫で回される度に捏ねられちゃう。

――苦しい。

――きもちいいっ!

――ダメえっ!もおぉっ!!


「はああああっ!!!」


全身を震わせながら絡んでいた口を離し、大きく息を吐き出した。

あそこももうジンジンしちゃってタマンナイ。

私は顎に唾液の感触を残したままで、
震えちゃう両腕を彼のTシャツを脱がそうと中に差し込んだ。

(つづく)