それからはもう俺たちはどこかタガが外れたかのようにもう止まらなかった。 まるで盛りのついたケモノのように互いの身体を求め合い、貪りあう。 どちらかがしたくなったら、それとなく合図を送り、ホテルで、互いの家で身体を重ね、交わった。 だが、両方とも「付き合ってる」とははっきりと言っていない関係。 いわゆる普通の彼氏彼女のようにどこかに出かけたりなどということもめったになく、 もっぱら会っては身体の関係を結んで別れるということがほとんどだった。 単なるセクフレと言われればそれまでかも知れない。 だが……いや、だからこそと言うべきか、欲望に対しては二人とも忠実だった。 俺は普通に紺野に口でしてもらうようになり、いろんな体位を試してみたりもした。 紺野のその部分を目の前の至近距離でじっくりと観察させてもらったこともあれば、 その豊かな乳房で挟んでしてもらったこともあった。 時には互いに相手の前で普段している一人えっちを見せ合ったりもした。 紺野のほうも女性雑誌やティーンズ誌で読んで仕入れたいろんなことを俺にリクエストしてくる。 休みの日にはそれこそ朝から晩までしていたこともあった。 そうして俺たちは互いの身体に溺れていった。 いつしか、俺は紺野のどこをどうすればどうなってどういうふうに悦び、そしてそのとき紺野がどうしてほしいかがわかるようになった。 そしてそれはまた紺野も同じだった。 身体の相性が良いと言えばいいんだろうか、俺と紺野は互いに相手の身体の、それこそすみずみまで知り尽くしている。 そして何度身体を重ねあっても、決して飽きるということがなかった。 俺は心の中のどこかでちゃんとした紺野の彼氏になりたいとずっと思いつつ、現状の居心地のよさにいつしか満足していた。 ……いや、単にずるずると流されていただけなのかも知れなかった…… そんなある日、俺たちはいつものようにホテルでお互いの身体を貪りあっていた。 行為が終わり、チェックアウトまで少し時間のあるゆったりとしたときを過ごしていたとき、紺野が俺に言ってきた。 「ね……愛ちゃんに告白されたんだって?」 愛ちゃんというのは俺たちのクラスメートだ。 そして紺野の友達でもあった。 「ん……ああ……知ってるのか」 「返事したの?」 「いや、まだ。……でも高橋って……俺たちがいっしょところよく見て……」 そう、こんな仲になった俺たちはいっしょにいることも多くなり、当然クラスの中で噂になっていた。 だが、お互いに何も言っていないこともあったので、聞かれても二人ともどうにも答えようがない。 ましてやセクフレだなんて言えるわけがなかった。 だから見ようによっては以前と同じように単なる仲のいい友人と見えなくもなかった。 「うん……あのね、実はあたし愛ちゃんに聞かれたんだ。あんたたち付き合ってるのか、って。 もしそうじゃないんだったらあたし告白しちゃうよ、って。」 「それで……高橋にどう言ったの。」 「何も……言ってない……言えなかった……だってわかんないんだもん。 だからあっちに聞いて、って……」 「…………」 「ね、あたしたちって付き合ってるのかな?」 紺野の声は少し震えている。 ひょっとしたら……紺野も実は……俺と同じことを思っていたのかもしれなかった。 「愛ちゃん……いい子だから愛ちゃんと付き合っちゃいなよ……」 「お…おい……」 「でもそしたらあたしたちもうこんなことできなくなるね…… 人の彼氏としちゃいけないよね。だから……今日で終わりにしよ。」 紺野が言った。 その表情はいつもの明るい紺野のそれとは違い、曇っている。 いや、今にも泣き出しそうだった。 「なに勝手なこと……」 「それに……あたし本当は前に寺田君に告白されてるの。 その時は断ったんだけど、寺田君いつまでも待つって…… だからあなたと愛ちゃんが付き合うことになったらあたしも寺田君と…… 最初は愛ちゃんといっしょのとこ見るの辛いかもしれないけど…そのうちきっと……」 紺野が言い終わらないうちに、俺は紺野を抱きしめた。 「寺田となんか付き合うなよ。俺も……高橋に断るから……」 「…………」 「俺……本当は前からずっと紺野と付き合いたかったんだ……だから…… 今からでも言っていいかな……俺と付き合ってくださいって。」 「……はい……」 紺野は腕を俺の背中に回し、手に力を込めてうなずいた。 次第にその手が小刻みに震える。 どうやら泣いているらしく、目から涙が溢れてきている。 「なんで泣いてんだよ……」 「……だって……ぐすっ……ぐすっ……」 俺はもう一度、腕に力を入れて紺野を強く抱きしめる。 俺たちはしばらくそのまま抱き合っていたが、やがて紺野も落ち着きを取り戻し、 涙をぬぐって顔をあげ、俺のほうを向くとこう言った。 「……ね……今日まだ時間ある?」 「なんだ……急に元気になったな。あるけど……何か?」 「なんだか……落ち着いたらまたしたくなっちゃった。だから延長してもう1回しよっ?」 「……おいおい……さっきしたばかりだろ?まだし足りないの?」 「うん。だって……これからするのはあたしたちが付き合い始めた記念になるんだもん。」 紺野はそう言ってにっこりと微笑んだ。 (了)