その日以来、俺と紺野の仲は急速に発展したように感じられた。 それは、人に言えない秘密を共有する者同士の連帯感ともいえるものかも知れなかった。 そして、なによりもそれ以前と決定的に違っていたのは、俺たちの会話の話題にその手の下ネタが増えたこと。 「ね、やっぱりあの時のように手でするの?」 「だいたいどれくらいの間隔?」 「一日何回ぐらいできる?」 など、どっから仕入れたのか盛んに聞いてくる。 だが、そんなことを聞いてくること自体、図らずも紺野に経験がないことを語っているようだった。 逆に未経験だからこそいろんなことを興味深く、貪欲に聞いてくるのかもしれない。 そりゃそうだ。早いやつはもう中学校時代に済ませているし、 俺のクラスの女子も半数近くが彼氏持ちでおそらくそれなりに経験しているに違いなかった。 ……もっとも俺のほうもまだ女性経験はないので人のことは言えないのだが。 そして俺の方も紺野に女の子のいろんなことを聞いて知識を仕入れていた。 本当はもっといろんなこと、特に紺野のプライベートな下半身事情についていろいろ聞きたかったのだが 目を血走らせて露骨に紺野個人のことを聞いても嫌われるのがオチなので、 どうしてもあたりさわりのないものにならざるを得なかった。 「生理になったら胸が張ってバストサイズが上がる」 「生えはじめたのは中学生のとき、生理が来たのも同じ頃」 「毛は多分濃くも薄くもなく普通」 というあたりさわりのないことがおそらく紺野自身の、 それも会話の中で一般的な話に混じって聞けた数少ない事例かもしれなかった。 その日も、俺と紺野は放課後の教室にいた。 ひとしきりの世間や友人の話題の後、なんとなくまた話がそういう方向に進んでいった。 「ね、で夕べはしたの?」 「してねーよ。夕べは早く寝たし。それにそう毎日はしないって。」 「え?だって男の子はだいたい毎日するんでしょ?そう聞いたよ。」 「しないって。そりゃ毎日するヤツもいるだろうけどさ。だいたいどこでそんな話聞いたんだよ。」 「そっかー、毎日はしないんだー。」 紺野はさかんに聞いてくる。 これまで興味を持ちながら人には聞けなかったことを俺に一気に聞いてきているようだ。 「でさ、する時ってどんなこと思ってするの?なんか見ながら?」 どうやらこんどはそっち方面に興味が移ったらしい。 「そりゃ、アイドルのグラビアとか水着写真とか見ながらすることもあるけどな…それとヌード写真とか……」 「ふーん。」 「あとはまあ…想像だよな。この子を脱がしたいとか、脱いだとこ想像してとか。」 俺が言うと、紺野はいきなり 「じゃ、あたしでしたこともある?」 と聞いてきた。 正直、俺は困った。 言うまでもなく紺野にはよくお世話になっている。 第一あの時の紺野のパンツが目に焼きついて離れない。 だが、紺野はどういう答えを予想しているのかしらないが、俺が今ここでどう答えてもまずいのではなかろうか。 「いいだろ……そんなこと。それより女の子のほうはどうなんだよ。女の子も普通にひとりエッチするって聞いたけど。」 俺は切り返しに出る。 「うん、するよ、普通に。あたりまえでしょ。」 不用意に紺野が答える。俺はしめた、と思いさらにつっこむことにした。 「ふーん。やっぱり男と同じように写真とか見ながら?」 「そーねえ。写真とかは見ないけど、好きな人とのこととか考えながらとか、 実際にそうなったときのこととか想像しながらとか………」 そこまで言ったとき、紺野は自分が何を言っているのか理解したようで、急に顔が真っ赤になった。 「……や、やだっ!あたしったら何を言ってるの!今のはアレよ、アレ。一般論だからね!あたしのことじゃないから。 じゃ…あたし急な用事があるから帰るね。じゃ。」 と、あわてて教室を出て行った。 …そうか……紺野……してるんだ…… ひとり教室に残された俺はそんなことを考える。 ……紺野……誰のことを思ってするんだろう…… その夜、俺がまた紺野の世話になったことは言うまでもなかった。